「髑髏城の七人season月 下弦」感想

下弦の月を観るまでの経緯

 人生の大きな山場になるであろう国家資格取得のための試験を終えたら、そのご褒美に劇団☆新感線の舞台を初めて生で観よう!と思ったのはいつだったか。知人イチオシのワカをDVDで観て(このあとしばらくタイチサオトメ氏が良い意味で怖かった)、今豊洲で髑髏がグルグルしていることも一応は知っていました。行ってみたいけど国家試験の年なのでスケジュール的に無理だろうとあきらめていたある日。「宮野真守 髑髏城の七人出演決定」という情報が私の元に舞い込んできました。宮野さんが何で時代劇に…?と思って髑髏城の公式サイトやらtwitterにお邪魔してから数分後、やっぱり観たいと衝動に駆られるままスケジュールを確認したところ、私が行ける日は月髑髏下弦千穐楽たった一回のみだということが判明。千穐楽だけ観るなんて長年のファンに申し訳ないと思いつつ、この一回のチャンスを掴むためにチケットサイトを走り回りました。

 そして冬も本格的になってきた中、チケット当選のメールが。国家試験が千穐楽近くなので十分な予習はできないけど、役者さんについては今まで演じてこられた演目を観たり、ブログを読んだり。舞台については、数多といる髑髏党員のみなさんのレポを読んで、必死に脳内シミュレーションしたり。国家試験と千穐楽を目指し、勉強と髑髏のバランスをとる毎日でした。

 千穐楽は本当に最高でした。捨天蘭の立ち位置や、七人の力強さ、大人の駆け引き、未来ある者へのメッセージ…こんなに引き込まれるなんて思ってなかった。以下のまとめは、月髑髏をたった一回しか観ていない者が髑髏ロスするほどの衝撃を受けて書いたものです。乱文やら偏差値低い文章やら口調の乱れをお許しくださいませ…。

 

まずは印象的だった場面を。

~天魔王爆誕
 「六欲天をご存じか」の最初の一言。えっと、このねっとりボイスはどなたのお声でしょうか…。ハッ、これはまさかあの鈴木天では!?と思いお顔を見るとそこには人の男。凄い。初っ端の雰囲気も凄いけど表情筋も凄い。天の男に一歩近づいた人の男が纏う幸福感と高揚感を全身で表現するような六欲天ダンス、そしてまだ存在していない城に名前を付け、言い放つ。「髑髏城で待っている」。クレバーな男は残す言葉もカッコいいなんて。ずるい。…戦国鍋と最遊記歌劇が脳内ぐるぐるしたので書きますけど、六欲天ダンス、鈴木さんかなり特訓したんじゃないかな、と。正直ダンスとなるとぎこちないイメージしかなかったので。そこが可愛いところでもあるけど、今回天魔王としてマントを捌きながら踊る姿は狂気に満ちていて圧巻だった。しかし、全然瞬きしない。

 

~捨之介登場~
 小気味良い拍子木の音!キレーな脚を惜しげなく見せながらやって来るやって来る。 これまた宮野捨は大柄なので似合う。腹チラはマモライ等でも見かけますけど、脚の主張も激しいんですね…。そして「いけねえなぁ」ですよ。あれはやばいやつだ。宮野ボイス破壊力は重々承知しているつもりでしたが心臓ワシっと掴まれてしまいました。あんちゃん捨最高…。
 「今のところは(略)」傘をスッと開いて脚を前に大きく一歩。傘を持つ手を高々と掲げて「…捨之介だ」。下げるタイプの口上にしたことで苦楽を経験してきた、また色気と儚さを含んだ大人の捨之介を感じられて。これは30代宮野捨の特権ですね…。口上の場面でふと思ったこと。宮野捨は、捨之介という名前を改めて自分に言い聞かせているようだった。彼はこの名前を(この時点では)それほど愛していないのかもしれない。過去から解放されたい男が全てを三途の川に捨て、得た名前。脆く、儚い己の心に突き立てた一振りの刀のようなものなのかな、と。

 

~捨天蘭再会 同窓会篇~
 広い関東荒野の風に消されないよう、捨は蘭に声を必死にぶつける。「無界屋蘭兵衛だろうが!!」ここの場面、仲間(と思ってるのは本人だけかもしれないけど)を失いたくない、人の男も戻ってくれるかもしれないと信じてる捨がしんどい。だからこそ捨てきれてないのに。でも下弦天は捨のこと絶対嫌いだろうなとは感じました。天魔王からは真面目さが見える見える。彼の仕切る髑髏党、労働時間についてはホワイト企業ですよ、多分。

 

~無界の里での蘭兵衛、あと兵庫~
 無界屋での蘭の様子を見ていると、太夫やガールズの事を心から信頼して大切にしていたんじゃないかな、と。ここまでどんな経緯で無界屋を盛り立てていったのかは大まかな事しか分からないし、想像の内でしか考えることができない。けれど無界屋で暮らす無界屋蘭兵衛という男を、蘭兵衛自身は愛していたと思いたい。時折見せる蘭丸としての本質は変わることは無いけれど、生きるための変革を遂げてきて今の蘭兵衛があるような気がします。当時は生き延びるために信頼し、裏切り、主君を変え、その中で自分の持てる物を武器にしながら己や一族を守るために奔走していたと思うので

 そして兵庫!千穐楽では最初から最後までありとあらゆるものを攫って行ったこの漢。素敵すぎるしズルすぎる。生で観て木村兵庫と伊達渡京好きになりすぎました。捨とはまた少し違うあんちゃん。何だろう、もっと真っ直ぐっていうか。何だかんだ言って無界の里とその主人を尊敬しているのでしょうね。

 

~黄泉の笛~
 「どけ、死にたくなければな」。笛からスラリと長刀を抜き、鞘投げ選手権。高く跳躍しながら、流れるように鉄騎兵を斬っていく。「君死に給うことなかれ」の歌詞が流れる中、太夫の思いと反対に蘭兵衛は自ら死へと向かっていくように見えて。この場面、彼は森蘭丸としての自分を意識的に呼び戻していたかも、と若干思いました。蘭兵衛では天魔王と渡り合えないと考えていたからこその派手な討ち入りのような気がします。羽野太夫は何度も「君死に給うことなかれ」って繰り返しますが、これは究極の言葉ですよね…。蘭兵衛が戻ってこないことに薄々気付いていたとしても心から願って出た言葉。オブラートに包まない嘘偽りのない思いと言葉だからこそ切ない。太夫の覚悟と蘭兵衛の覚悟が交錯し、また離れていく…。二人は心から信頼し合える間柄だったんだと、こんなにも感じられるのが別れの場面だなんて…と感じました。

 

~天魔王の口説き
至ってクレバーな天。冷静に蘭を追い詰めていく。「この私を殺せるか!」目を見開き、蘭を挑発する。蘭兵衛として最後の大商いに来たはずの彼を、ニヤッと笑いながらどんどん蘭丸へと引きずり堕とす。ホント計略上手な鈴木天。
 仮面を見せられた後の天は冷静に見えるけど物凄く蘭を揺さぶってる。言葉の強弱、抑揚を殿に似せているのかは分からないけど、蘭の息が段々と乱れ、抱えた頭を床に擦りつけながら「やめろ…、やめろ…!」と声高に呟く姿からは殿の存在の大きさを感じました。仮面を見せられて堕ちていく蘭を見る天は本当に悪いお顔なんだけど、蘭はそれを見て無いんですよね、仮面越しに殿を見てる。そうか、殿の前にいたのは森蘭丸であって蘭兵衛じゃないの、か…。
 

~霧丸と捨之介の再会in髑髏城~
 霧ちゃんの信用を失ってしまった捨の悲しそうな顔。過去はどうにもできないことをよく知っているからこそ苦しい今の状況。昔も今も地の男ではあるけれど、そのお役目はかなり変わったと思います。霧ちゃんは捨に自分と同じものを見出して相手を理解しようとしていて。こういうところにも霧ちゃんの成長感じました。どうしても霧ちゃんに対してはお姉さんどころかお母さん目線になってしまう。なんなら近所のおばさんでもいい!

 

~霧丸と渡京~
可愛いいが爆発しまくってるお二人のコント最高!としか言えない。「あ、てめー、渡京、うらぎるつもりだなー。」なんて素敵な棒読み!コナン君でももうちょっと上手じゃないですかね!霧ちゃん、可愛いよ!!霧ちゃんおばさんになりかけてるところにトドメを刺さないで欲しかったですけどね…。
 一輪車とスケボーも可愛い。というか二人で何かこちょこちょやってるところ全部可愛い。円形の劇場を自由自在に走り回る。スケボーに負けず劣らずのスピードで爆走してる伊達渡京の一輪車も、現代っ子らしくスマートにスケボー操る松岡霧ちゃんもとっても生き生きしてる。好きです…。

 

~天魔王の裏切り~
 天に斬りかかられた蘭は明らかに動揺してるけど、それは天を信頼していたからではないなと。天に殿の面影を見てる。だから殿の意志を継ぐという点において一致していたはずが裏切られた、ということへの動揺な気がします。
天は何度も蘭の身体を刀で貫く。そして真一文字に蘭の目を切り裂く。蘭丸に戻ってからは事ある毎に天を仰ぐことが多かった蘭の目。それををあえて斬ることは小姓時代から募らせてきた蘭への憎しみや嫉妬を表していた感じがして。二度とその天を、殿を見えないようにしてやろうという人の男の器の小ささが出てると思います。殿だったら駒を無様に生かす前に確実に斬り殺してるでしょうし。

 

~蘭兵衛の死~
 「しょせん、外道だ…!」と蘭は苦しそうに言葉を吐き、銃撃に倒れる。兵庫に止められるまで撃っていた太夫も我に返ると必死に蘭の手をさする。蘭の手に付いた三途の川の血を必死に取ろうと、また太夫に優しく伸ばされていた蘭兵衛の手を取り戻そうとするかのように。そこにゆっくりと近づく捨は蘭の死を受け入れている気がしました。というか無理矢理自分を納得させていたようにも見えました。捨はきっと無界の里で蘭兵衛として生きていくことに最後まで望みを掛けていたんだろうと思います。でもこうして太夫に看取ってもらえたことで(この場面では)蘭の死を受け入れないといけない状況に置かれてしまったような感じを受けました。

 しかし、その後の「天魔王―!どこだぁ!!けりぃ、つけようじゃねぇかぁー!!」と叫ぶ台詞には蘭兵衛を救えなかった己への怒りが籠っている気がします。納得しようと蘭の死を反芻している内に感情が高ぶっていったような叫び。やっぱりお兄ちゃんなんですよね、捨は。待ってろって言ったのに勝手に行ってしまった蘭を見捨てることが出来ずに最後まで必死に語り掛けている。それが自分のエゴだとしても。それと、この台詞にもう一つ思うところがあって。ここで捨が人の男の本当の名前ではなく、天魔王と呼んでいるところです。捨はあくまで天魔王を止める、という意志を貫いているんでしょう。彼が斬りたいのは天魔王で、それを止めさえすれば人の男は帰って来ると信じている。だからこそここで「天魔王!!」と叫んだのでしょうね…。

 

~捨天対決~
 暗い天魔の間に等間隔で光るライト。暗闇を切り裂くようなあの眩いライトはそれだけで今の捨天のようでした。それまでのがちゃがちゃした雰囲気(百人斬りとか渡霧の場面とか)とは打って変わって、二人だけの世界。誰にも邪魔されないけど、決断の時は確かに迫ってる、そんな緊迫した雰囲気でした。捨は天を止めることにちょっと期待を含んでいるようだったけど、天は完全に覚悟を決めた顔に見えました。
 仮面が外れた瞬間の「なに!?」という驚きの表情。一瞬何が起きたのか分からずに固まっているところから、天を目指した男の崩壊は始まっていた。というか、あの場面本当に大変ですよね、鈴木天。台詞もあって殺陣もあって、その合間に鎧の継ぎ目(仕掛け)を外していくんですから…。さらにそこに崩れ始めた天魔王としての顔と現れた人の男の感情まで載せなきゃいけない。 
 六天斬り、私のイチオシは「ぃやまてェん!!」です!あの、ちょっと六天斬りの音源BGMと一緒にくれませんか新感線さん。ドスも効いてるし超活舌良いし、捨に思いを寄せてる時は超気持ちが良かった六天斬り。天の鎧を外していく捨は段々口角が上がり、六天斬りの口上も高らかになっていくのに対して天はどんどん小さくなっていく。姿勢も声も殺陣も。なので天に思いを寄せるとこの場面はちょっとツラいんですよね。
 そして天の最期ですね。全てを諦めたように笑って捨の刀を自らの腹に突き刺す。メリメリと音をさせながら、ゆっくりと捨に自分を刺している感覚を味合わせているんじゃないかと…。ここで捨と天の感情が逆転する気がしました。最期の悪あがきのようにニタリと笑う天と驚きで顔を強張らせる捨。天を止められると確信していた捨が自分の考えの過ちに気付いた瞬間。気付いた時にはもう遅い、ってこういう事です。天が最後に「捨之介」とはっきり呼びかける場面。あれ絶対わざとその名前で呼んでると思います。それまで捨のことは「あの男」「貴様」が多いですし。捨之介、お前が私を殺したんだというような天の言葉と眼。捨の刀をわざわざ自分の身体から抜いて捨に持たせたままにしたのも、よりそのことを実感させるためだと思います。「天魔王として死ぬがいい」は蘭の目を斬った時同様、天が精一杯の嫉妬と憎しみを小さい身体で精一杯張った虚勢にしか見えませんでした。スモークが後ろから噴き出す中、闇を前にスッと立つ天は美しい。鎧が無くなった細身の一人の男があの不敵な笑みで天魔王として虚勢を張って死んでいく。天は捨のまばゆい陽の光を浴び続けて苦しんではいたけれど、自らその伸ばされた手を振り切って死んでしまった。誰にも信念を曲げられず、最期まで貫き通して。本当の意味での勝ち逃げ。本当に自分勝手。でもそれは捨も蘭も同じなんだろうとも思います。やっぱりこの三人、本当のところは仲良くなかったですよね?
 あと、六天斬りの場面で捨が天のマントを剥ぐところ、二人の身長と体格差の効果でしょうけど捨が天をいじめてるようにも見えて、ちょっと天が可哀そうだなぁと思ったのはここだけの話です。

 

~髑髏城からの脱出~
 天魔王の(殿の、という表現は違うような気がする)鎧に縋りついて慟哭している捨。彼は蘭に続いて天も救うことが出来なかったんですね…。捨はいつも大事なことに間に合わない人なのかもしれない。と大きな身体を震わせている捨には生きようという意志は感じられませんでした。そんな捨に真っ先に駆け寄って歯を食いしばりながら鎧を奪って投げ捨てた霧ちゃん。捨から鎧を奪って捨てて、肩貸して逃げて、「あんた、地の男なんだろッ!!」って、前に捨に生きろって言われていたとしてもちょっと自分勝手な気がして。でも捨は道理が通ってる男だから霧ちゃんを死なせるようなことは自分が許さないでしょうね。自己犠牲の男は髑髏城を抜け出すことについて、自分が生きることよりかは霧ちゃんを生かすことにウェイトを置いていたと思います。

 必死で戦う人々の背後から光差し、七人のシルエットが浮かび上がる。バラバラのはずの七人は、一つになっていた。この時だけだとしても。捨の袖が力強く光を含み、風に揺れる姿があまりに眩しかったのをはっきりと覚えています。

 

~捨之介と家康、霧丸の説得~
 やっと抜け出したボロボロの捨を囲む徳川兵。天魔王の意図を知った捨の荒い呼吸とに混じる笑いはこっちも苦しい。そして「浮世の義理も…」と震える声で言葉を紡ぎだし、感情のボルテージが最大になった時「三途の川にィ!捨之介ェェェェエ!!!」と必死に叫ぶ捨。俺は俺だ、と必死に主張しているようでした。覚悟の口上は、タイトルコールの時の口上よりも口上らしいと私は感じました。捨はこの名前の裏に、こうやってたくさんのものを捨てて隠してきてるんだなって思ったら涙腺崩壊しかけてました。
 「家康さんよォ」と語り掛ける捨は汗と涙と水でもう色々とぐっちゃぐちゃなんですけど、でもそれが余計に捨をリアルに見せていました。ビリビリと震える空気の中で捨てられた刀は捨の覚悟の象徴でした。「約束しよう」と言われた捨は立てずに家康の胸にそのまま崩れ落ちてしまう。とうとう天魔王の手に自ら堕ちることを決める。捨も天も自ら死に向かっていったけど、捨はみんなを生かすために自分は死のうとする。千穐楽終わって1週間くらいは、ここに捨天の明確な違いがあるよな、うんうんって思ってました。でも本当にそうなのか?という思いが少しずつ出てきて。過程と目的がどうであれ、やはり死を選ぶって最悪の選択だと思うんです。現代でもそうだと思うんですけど、自分の弱さに耐えられないから、周りからのひどい扱いがあったから、自分の所為で苦しむ人がいるなら…、と様々な理由で自死を選んでしまう人たちがいる。でも、誰が弱いだとか悪いだとか関係なく、結果としての死は本人も周りの人も救われないと思うんです。だからこそ、捨が死を選ぶことこそが最大の罠であり喰われることだったのではないかと感じました。
 霧ちゃんが家康に兜突き出してる間、捨はずっと「霧丸ッ、霧丸ッ…」ってか細く、上ずった声で呼んでいて。霧ちゃんの命を救ったのは捨で、霧ちゃんはそれに恩返ししたい(我儘も入ってると思うけど)と思ってるけど捨はそれを望んではいない。でも霧ちゃんは悲しませたくない。彼の将来を邪魔したくないとう思いも強い。捨自身は拾ってもらった命は大切にすると思うんですけどね。
 

~それぞれの行く先と別れ~
 渡京!!お前って奴は!なんて素敵な奴なんだ!!伊達渡京はコミカルさに隠した計算高さがとても気持ち良かったです。「双子の…」「嘘つけ!!!」パシャパシャと音をたてて川を渡り一言。「嘘つき渡京と人は呼ぶ。」あー!カッコいい!!
 兵庫ぉ!「おっとうのズラファ二ー(めっちゃ発音良い)!」瞬間的に捨霧から肩パンのツッコミ入る。感動の波が押し寄せる中突然入ったネタ。そういえば新感線の舞台でしたっけね!と思い出させられました。対照的に「りん、ど、う…」の声が小さいの可愛い。この二人は良いコンビでこれからやっていくんだろうなぁと思いました。
 太夫は良い女。羽野太夫の呼ぶ「蘭兵衛さん」「兵庫さん」「捨之介さん」「霧丸」そしてガールズ。みんなそれぞれへの愛情が込められた呼び方でした。でもやっぱり蘭兵衛は特別だったんだな、と何となく思いました。生き地獄を見てきて、ようやく手に入れたはずの平和も手を離れ、またもや地獄を見た太夫。今度こそ幸せになってほしい…。
 霧ちゃんがみんなを見送って感慨にふける中、捨はとっととその場を去ろうとする。散々付き纏ってたくせに置いてくなよ!みたいな感じでキャンキャン吠えてる。最後まで可愛いのなんの。「城を造ってやるよ!」と言う霧ちゃんは本当に捨のことが大好きだし、これからも自分の成長を見て欲しいんでしょう。霧ちゃんにとってはやっぱり捨は陽の男。それを上半身だけ振り返って温かな目で見つめる捨。「よせよせ、」着物の裾をめくって左脚を前に大きく一歩。「柄じゃあ、ねぇよ!!!」柔らかな光が差し込む中、高らかに笑いながら去っていく。捨之介は捨之介としての人生にまた戻っていった、捨という名前を捨てずに。最後まで粋なあんちゃんだった捨。追いかけていく霧ちゃんはこれから明るい人生に向かっていくんだろうなぁとは思うんだけど、捨がこれからどうするのかは他の六人と比べるとほとんど示唆されてない。ここまでが髑髏城の七人という物語だと改めて思い起こさせる。ケレン味溢れるこの物語は、偶然にも集まった人達の人生の内、ほんの一部を切り取ったもの。捨天蘭、三人の終わらない青春時代に終止符が打たれた物語。濃い内容ではあるけれどさっぱりと終われるところで物語が終わってる感じがどうもしてしまうんですけどね。


私の思う宮野捨の陽と陰。
 捨は天も蘭も仲間だと思ってる。またあの同じ釜の飯を食っていた頃の三人に戻れると信じてる。だからこそ二人を死なせたくなかった。でもそれって結局のところ捨の我儘でもある気がしてならないです。これからも蘭を守れなかった自分への怒り、天を殺してしまった(死んでしまった)絶望が捨をずっと支配することになるんだろうな、と思います。それでも、宮野捨が大切にしていた人との繋がりが、愛が、一秒でも長く彼をこの世に引き留めていますように、と願わずにはいられない。
 宮野さんがパンフの最後でも言ってるけど、捨はこの後どこかでふらっと死んでいてもおかしくないと思いました。陽の背後に隠した闇は深いし、後々捨を蝕みそうな危うさがずっと付き纏ってる。新しい名前を探す旅に出ていかず、捨てきれないものを抱えたまま、彼は捨之介と己を偽って生きていく気がします。

 ひとまず、宮野さんが持つ「陽」を前面に打ち出すことで、奥底に隠されていた「陰」を引きずり出してきたいのうえ大明神に感謝するしかありません…!

 あと宮野捨の綺麗な脚も忘れちゃいけませんよね。ありがとう。

 

廣瀬蘭はとても人間らしいと私は思う

 分からないと評されることの多かった廣瀬蘭だけど、彼の考える蘭ってとても人間らしいと思うんです。ずっと愛されているけれど、周囲の環境によって形作られていく自分、時の流れが変えていく自分、やっぱり根底にいる過去の自分。何故あれほど変わってしまうのか、私もよく分かりませんでした。確かに殿に仕えていたころの蘭丸は頭脳明晰・器量良しでとても美しく、その思い出は未だ色褪せることなく蘭兵衛の片隅に住み着いている。でも無界の里にいた蘭兵衛はそこでしか得られない幸せを得ていたと思うんですが…。結局、廣瀬蘭を理解するには空白の8年間を紐解かなければ答えは出ないんでしょう。でもそれがとても深い。廣瀬さんがブログの中で人の本質は難しい、と言うようなことを書いていたけれど、本当にそう思います。正直廣瀬さんについても(天然故か)理解できないことはいっぱいありますけどね…!蘭の本質は蘭兵衛にも蘭丸にもある。人は完璧じゃない。全てを理解しようとしてた私は無粋だったのかもしれません。ありがとう廣瀬智紀さん。ありがとう愛髑髏。

 

私が語るにはイケメン社長すぎた鈴木天。

 ワカからどくろじょデビューしてしまった私はですね、天魔王のイメージが何故かワカ蘭よりも捻じれまくったクセしかないヤバい人物、という認識が強かったんです。でもみなさんのレポを見ていて、下弦天はクレバーだの気持ち良いヴィランだの書かれていたので混乱を極めてました。実際に観ての感想は…「本当に気持ちよかったです」

 自分の意志に誰よりも忠実で悪の道(当時としてはやっぱり普通な気もするんですが)をひたすら突き進んでいく天はあまりにもカッコよくて。生駒であっても駒は駒。なのに殿や憧れの天への愛を拗らせて、年単位で準備してきた第六天魔王の夢がこんなにも儚く終わってしまうことを考えると少し切なくなります。ある意味でこの戦いに勝ったのは天魔王でしょう。勝ち逃げなんてずるいですが、これが人の男の真骨頂だと思います。お顔も綺麗なまま、美しい立ち姿で暗闇に掻き消える天は本当に最後まで頭の切れる男なんですね。

 下弦天、役者さんはかのニコニコ顔の鈴木拡樹さん。彼の愚直な真面目さと凄まじい表情筋に感謝しかないです。

 それにしても最期に落ちたあの扉の向こうは現代だったりしませんか?下弦天、今どこかの大企業の社長とかになってないですかね??

 

システム社会 対 人の繋がり

 以上、好き勝手自分の受けた印象と感想やら考察をぶち込んだ闇鍋を披露してしまいましたが、それだけ下弦の月が私の心を大きく揺さぶっていったことを伝えたかった…!たった一回のチャンスを与えてくれたローチケに、下弦に、愛髑髏に本当に感謝しかありません。

 現代みたいに難しいシステムが無いからこそ、人の心の繋がりは時に生死を分けるほどの強力なものだったのではないかと思います。信頼とは何か。捨天・捨霧・捨蘭・捨兵・蘭太・兵蘭…たくさんの繋がりがあって、敵対している間柄でも何か相手を信頼しているところがあって。時にその思っていた信頼を上回る繋がりがあれば、想定外の裏切りもある。システム社会ではスパッと答えが出てしまう問題も、私情が挟まることで展開が変わっていく。最近ラジオやブログで関係性の構築について色々あった…というのを見聞きする度、そこに正面からぶち当たってくれた下弦のカンパニー全員に心から感謝しています。

 こんな時期に卒論書いたなんて我ながら笑えてしまうけど、でも書くしかなかった。

 今後は極髑髏にも登城するので、今から天海姉さんのイケメンっぷりに思いを馳せながらmy初日を待ちたいと思います。

 本当にありがとうございました!